ロールズの「無知のヴェール」とは? 公正な社会を選ぶための思考実験

ケーキを公平に切り分けたいなら、切る人に最後の一切れを取らせればいい、という話があります。自分がどれを取るか分からなければ、誰もが均等に切ろうとするからです。アメリカの哲学者ロールズは、この発想を社会全体のルールづくりに当てはめました。それが「無知のヴェール」です。
3行でわかる
- 「無知のヴェール」とは、自分の社会的地位や財産、才能、価値観を知らない状態を想定して、社会のルールを選ぶ思考実験。
- ロールズは、この状態では全員に平等な基本的自由と、最も恵まれない人の利益になる不平等だけを認める原理が選ばれると論じた。
- 実際にあった出来事ではなく、公正な視点を作るための仮想の状況である。
01これは何か(人物・概念の正体)
「無知のヴェール」とは、自分がどんな立場の人間かを一切知らない状態で、社会の基本的なルールを選ぶとしたら何を選ぶか、を考える思考実験です。
ジョン・ロールズはアメリカの哲学者で、1971年の『正義論』でこの考えを示しました[1]。
ヴェールの向こうでは、自分の社会での地位、階層、財産、人種や性別、生まれつきの才能、そして自分が何を大切にして生きるかさえ分かりません[1]。この状況を「原初状態」と呼びます。
02どんな時代・文脈で生まれたのか
自分に有利なルールを選べない状況を作ることで、公正で偏りのない視点から正義を考えるために考案された。
自分が裕福だと分かっていれば、お金持ちに有利なルールを選びたくなります。ロールズは、そうした偏りを取り除いた「公正で偏りのない視点」を作るために、この状況を設計しました[1]。
ロールズは自分の正義の考え方を「公正としての正義」と呼びました。原初状態は歴史上の出来事ではなく、あくまで仮想の状況、一種の思考実験です[1]。
03中心の思想を、生活の言葉で
ロールズは、ヴェールの向こうの人々は、最悪の場合に備えて二つの原理を選ぶと論じた。
『正義論』(1971年)[1]
第一原理は、全員に平等な基本的自由を保障すること。第二原理は、機会の公正な平等を保ったうえで、不平等は社会で最も恵まれない人の利益を最大にする場合にだけ認めること(格差原理)。ロールズは、自分が最も不遇な立場になる可能性に備え、最悪の結果が最もましになる選び方(マキシミン)をするのが合理的だと考えた。
よくある誤解: ロールズは完全な平等を求めたのではない。最も恵まれない人の利益になるなら、一定の不平等は認めている。
一方で、ハーサニ(J. Harsanyi)は、ヴェールの向こうの人々は平均的な幸福を最大にする原理を選ぶはずだと反論しました[1]。どんな選び方が合理的かは、今も議論が続いています。
04今の生活・現代社会での意味
社会保障や税のあり方を考えるとき、「もし自分がどの立場に生まれるか分からなかったら」と問い直す道具として使われている。
制度を評価する問いとして
ある制度が公正かどうかを考えるとき、自分が最も不利な立場だったとしても受け入れられるか、と問うことができる。
自分の立場からいったん離れる
議論で自分の利害に引っぱられていると感じたとき、立場を入れ替えて考える習慣として応用できる。
05関連する哲学者・概念
社会全体の幸福の合計を重視する功利主義と比べると、ロールズの特徴がはっきりする。
06よくある質問
無知のヴェールとは簡単に言うと?
自分の立場や才能を知らない状態で社会のルールを選ぶとしたら何を選ぶか、を考える思考実験です。ロールズが『正義論』で示しました。
ロールズは完全な平等を主張した?
いいえ。格差原理では、最も恵まれない人の利益になる不平等は認めています。全員に平等な基本的自由を保障することが前提です。
無知のヴェールへの批判は?
ハーサニは、人々は平均的な幸福を最大にする原理を選ぶはずだと反論しました。最悪に備える選び方が合理的かどうかが論点です。
出典
- Freeman, S. "Original Position." Stanford Encyclopedia of Philosophy. https://plato.stanford.edu/entries/original-position/
- "John Rawls." Internet Encyclopedia of Philosophy. https://iep.utm.edu/rawls/
- Wenar, L. "John Rawls." Stanford Encyclopedia of Philosophy. https://plato.stanford.edu/entries/rawls/
