ハイデガーの「死への存在」とは? 死を意識すると生き方はどう変わるのか
「人はいつか死ぬ」。誰もが知っている事実です。でも、その「人」の中に自分を本気で入れて考えることは、あまりないのではないでしょうか。20世紀ドイツの哲学者ハイデガーは、私たちが日常の中で死を他人事にしていること自体に注目し、そこから生き方の問題を引き出しました。
3行でわかる
- ハイデガーは、人間を「現存在(ダーザイン)」と呼び、死を生物としての終わりではなく、人間のあり方の問題として考えた。
- 日常の私たちは、世間の「ひと」の一人として振る舞い、死を「いつか誰かに起こること」にして目をそらしている。
- 自分の死を先取りして引き受けることで、人は世間に流されない「本来的」な生き方ができるとした。
01これは何か(人物・概念の正体)
「死への存在」とは、人間は常に自分の死という可能性に向き合って存在している、というハイデガーの考えです。死は人生の最後に一度だけ起こる出来事ではなく、今の生き方そのものに関わっています。
マルティン・ハイデガーはドイツの哲学者で、1927年に主著『存在と時間』を発表しました[1]。
ハイデガーは人間を「現存在(ダーザイン)」と呼びました。「存在するとはどういうことか」を、少なくとも漠然と理解しながら生きている存在、という意味です[1]。
02どんな時代・文脈で生まれたのか
ハイデガーは、人がどう生きているかという日常の姿の分析から、「存在とは何か」という大きな問いに迫ろうとした。
『存在と時間』では、道具を使い、他人と関わり、世間の常識に従って暮らす私たちの日常の姿が、細かく分析されています。死の分析もその流れの中に置かれています。
なお、ハイデガーは1933年にナチ党に入党しており、その思想とナチズムの関係は今も議論の的になっています[1]。
03中心の思想を、生活の言葉で
私たちは普段、世間の「ひと」として死から逃げている。死を先取りして引き受けると、自分の生き方を自分で選べるようになる。
『存在と時間』(1927年)[1]
ハイデガーは、生物としての命が尽きること(落命)と、人間のあり方としての「死」を区別した。死とは、自分の存在がまったく不可能になるという可能性である。日常の人は、世間一般の「ひと(ダス・マン)」として振る舞い、その経験から逃げて、世間の決まりにいっそうしがみつく。これに対し、本来的な生き方は、死から逃げずに、死へと「先駆ける」ことで成り立つとした。
よくある誤解: 「死への存在」は、死を願うことや、死ぬ準備をすることではない。死を意識することで、今の生き方を自分のものにするという話である。
ハイデガーは、こうした気づきのきっかけとして「不安」を重視しました。はっきりした対象のない不安が、世間の当たり前に埋もれていた自分のあり方を照らし出すと考えたのです[1]。
04今の生活・現代社会での意味
「みんながそうしているから」で決めていることを見直し、自分の人生を自分で引き受けるという問いとして読まれている。
世間の「当たり前」を問い直す
進路や仕事を「普通はこうする」で選んでいないか、と立ち止まるきっかけとして参照される。
限りある時間の使い方
人生の時間が限られていることを意識すると、何を大切にするかが見えやすくなる、という発想の源流の一つとされる。
05関連する哲学者・概念
「人間は自分で自分をつくる」と説いたサルトルは、ハイデガーから大きな影響を受けた。
06よくある質問
ハイデガーの「死への存在」とは簡単に言うと?
人間は常に自分の死という可能性に向き合って存在している、という考えです。死を意識することが、本来の自分の生き方につながるとしました。
「ダス・マン(ひと)」とは?
世間一般の誰でもない誰か、のことです。日常の私たちは「ひと」として振る舞い、世間の決まりに従って暮らしているとハイデガーは考えました。
死を意識すると何が変わる?
ハイデガーは、死から逃げずに先取りすることで、世間に流されず、自分の生き方を自分で引き受けられるようになると考えました。
出典
- Wrathall, M. "Martin Heidegger." Stanford Encyclopedia of Philosophy. https://plato.stanford.edu/entries/heidegger/
- "Martin Heidegger." Internet Encyclopedia of Philosophy. https://iep.utm.edu/heidegge/
- Aho, K. "Existentialism." Stanford Encyclopedia of Philosophy. https://plato.stanford.edu/entries/existentialism/