エピクテトスの「自分次第のもの」とは? ストア派の心を乱さない考え方

上司の機嫌、電車の遅延、他人からの評判。私たちの悩みの多くは、自分ではどうにもできないことから生まれます。約2000年前、奴隷の身分から解放された一人の哲学者が、この悩みに一つの答えを示しました。世の中のことを「自分次第のもの」と「そうでないもの」に分けて考えよ、というのです。
3行でわかる
- エピクテトスは、物事には「自分次第のもの」と「自分次第でないもの」があると説いた。
- 判断、衝動、欲求、嫌悪といった自分の心の働きは自分次第だが、体や財産、評判などはそうではない。
- 人の心を乱すのは出来事そのものではなく、出来事についての判断だとした。
01これは何か(人物・概念の正体)
「自分次第のもの」とは、自分の判断や欲求など、自分の心の働きのことです。エピクテトスは、これと自分ではどうにもならないものとをはっきり分けることが、心の平静の出発点だと考えました。
エピクテトスは、古代ローマ時代のストア派の哲学者です。紀元50年代にヒエラポリスで生まれ、奴隷として過ごした時期があり、のちに自由の身になりました[1]。
エピクテトス自身は著作を残していません。その教えは、弟子のアリアノスがまとめた『語録』と、その要約である『提要(エンケイリディオン)』によって伝えられています[1]。
02どんな時代・文脈で生まれたのか
皇帝の命令で哲学者がローマから追放されたあと、エピクテトスはニコポリスで学校を開き、教えを説いた。
89年、皇帝ドミティアヌスが哲学者を追放する命令を出したため、エピクテトスはローマを離れました。その後、ニコポリスに自分の学校を開いています[1]。
自分ではどうにもならない運命に翻弄された経験が、その教えの背景にあると読むこともできます。
03中心の思想を、生活の言葉で
自分次第なのは、判断・衝動・欲求・嫌悪。人を乱すのは出来事ではなく、それについての判断である。
『提要』第1節・第5節[2]
『提要』は、「あるものは私たち次第であり、あるものは私たち次第ではない」という言葉で始まる。私たち次第なのは、判断、衝動、欲求、嫌悪、つまり自分自身の行いである。また第5節では、人の心を乱すのは出来事ではなく、出来事についての判断だと述べられている。
よくある誤解: 「自分次第でないものは気にするな」は、無関心や諦めのすすめではない。自分が働きかけられる部分に力を注げ、という考えである。
エピクテトスがとくに重視したのは、心に浮かぶ印象を正しく扱うこと、そして選択する力(プロアイレシス)でした[1]。出来事への最初の印象をそのまま受け入れず、判断を吟味することが求められます。
04今の生活・現代社会での意味
どうにもならないことに悩み続けるのをやめ、自分が変えられる部分に集中する考え方として、今も多くの人に読まれている。
悩みを二つに仕分ける
悩みを「自分で変えられること」と「変えられないこと」に分けると、手をつけるべきことが見えやすくなる。
出来事と判断を分ける
嫌なことが起きたとき、出来事そのものと、自分がそれに下した判断を分けて考えると、気持ちを立て直しやすくなる。
05よくある質問
エピクテトスの「自分次第のもの」とは?
判断、衝動、欲求、嫌悪といった自分の心の働きのことです。体や財産、評判などは自分次第ではないとしました。
「人を乱すのは出来事ではなく判断だ」とはどういう意味?
同じ出来事でも、それをどう判断するかで心の動きが変わる、という意味です。『提要』第5節の言葉として知られています。
エピクテトスの本は何を読めばいい?
弟子のアリアノスがまとめた『語録』と、その要約である『提要(エンケイリディオン)』が伝わっています。短い『提要』から読むのが入りやすいでしょう。
出典
- Graver, M. "Epictetus." Stanford Encyclopedia of Philosophy. https://plato.stanford.edu/entries/epictetus/
- "Epictetus." Internet Encyclopedia of Philosophy. https://iep.utm.edu/epictetu/
- Durand, M., Shogry, S., & Baltzly, D. "Stoicism." Stanford Encyclopedia of Philosophy. https://plato.stanford.edu/entries/stoicism/