ホッブズの「万人の万人に対する闘争」とは? 国家はなぜ必要なのか

もし警察も法律も政府もなかったら、私たちはどう暮らすでしょうか。みんなで仲良く助け合う、と考える人もいるかもしれません。17世紀イギリスの哲学者ホッブズの答えは違いました。誰もが自分を守るために争い合う、「万人の万人に対する闘争」になるというのです。
3行でわかる
- ホッブズは、国家のない「自然状態」では、人々は互いに争い合う「万人の万人に対する闘争」に陥ると考えた。
- 争いの原因は、競争、不信、名誉を求める気持ちの三つだとした。
- 人々はこの状態から抜け出すため、互いに契約して権利の一部を手放し、主権者に従うことを選ぶと論じた。
01これは何か(人物・概念の正体)
「万人の万人に対する闘争」とは、国家や法のない状態では、誰もが自分の判断で身を守ろうとするため、すべての人が互いに争う状態になる、というホッブズの考えです。
トマス・ホッブズはイギリスの哲学者で、1651年に英語版の『リヴァイアサン』を出版しました[1]。
ホッブズは、この自然状態での人間の生活を「孤独で、貧しく、つらく、残酷で、短い」と表現しました。この一節は、今もよく引用されます[1]。
02どんな時代・文脈で生まれたのか
ホッブズは、イギリス内戦にいたる政治の混乱の時代を生き、平和を保つための仕組みを考えた。
スタンフォード哲学百科事典は、ホッブズがイギリス内戦にいたる政治的な崩壊の時代を生きたことを、その思想の背景として挙げています[1]。
ただし、自然状態は「昔、実際にあった時代」の記述である必要はありません。誰もが自分の判断だけで動く状態を、考えるために取り出した抽象的な想定だとされています[1]。
03中心の思想を、生活の言葉で
争いの原因は「競争」「不信」「名誉」。だからこそ人々は契約を結び、権利の一部を手放して主権者に従う。
『リヴァイアサン』(1651年)[1]
ホッブズは、人々が争う原因として、利益をめぐる競争、相手を信用できない不信、そして名誉や評判を求める気持ちの三つを挙げた。この状態から抜け出すため、人々は「すべてのものへの権利」の一部を手放し、互いに契約して主権者の権威に従うとした。
よくある誤解: ホッブズは「人間は生まれつき悪だ」と言ったのではない。誰もが身を守ろうとすると、かえって争いになるという構造を示した。
ホッブズは、主権者の権力は分けられたり制限されたりしてはならないと考えました[1]。権力が分かれれば、再び争いの種になると考えたためです。この点は、のちの思想家から強く批判されることになります。
04今の生活・現代社会での意味
法や政府がなぜ必要なのか、私たちは何と引き換えにそれに従っているのか、という問いの出発点になっている。
社会契約という考え方
「人々の合意によって国家ができる」という発想は社会契約説と呼ばれ、のちの政治哲学に大きな影響を与えた。
秩序と自由のバランス
安全のためにどこまで自由を預けるべきか、という問いは、緊急時の権限や監視をめぐる現代の議論でも繰り返し登場する。
05関連する哲学者・概念
同じく「人々が合意する場面」を想定して社会のあり方を考えたロールズと比べると、違いが見えてくる。
06よくある質問
「万人の万人に対する闘争」とはどういう意味?
国家や法のない状態では、誰もが自分を守るために争い合うことになる、というホッブズの考えです。『リヴァイアサン』で示されました。
ホッブズは人間を悪だと考えていた?
そうではありません。誰もが身を守ろうとすると、競争・不信・名誉を求める気持ちから争いが生まれる、という構造を示しました。
ホッブズの社会契約とは?
人々が争いを避けるため、互いに契約して権利の一部を手放し、主権者に従うことです。ホッブズは主権者の権力を分けてはならないと考えました。
出典
- Lloyd, S. A., & Sreedhar, S. "Hobbes's Moral and Political Philosophy." Stanford Encyclopedia of Philosophy. https://plato.stanford.edu/entries/hobbes-moral/
- "Thomas Hobbes: Moral and Political Philosophy." Internet Encyclopedia of Philosophy. https://iep.utm.edu/hobmoral/
- Hobbes, T. (1651). Leviathan. Project Gutenberg. https://www.gutenberg.org/ebooks/3207
